Vol.82 太陽光発電契約満了「2019年」問題。

「2009年」に開始された太陽光発電高価買い取り制度が2年後から満了。
売電価格の減少が続いている中で、政府はZEHを推進しているが、その真意は?

2017年9月28日更新

「2019年」に太陽光発電の高値買い取りが満了を迎えます。

2019年の11月で太陽光発電の買い取り制度が10年間の満了を迎えるため、11月以降は売電契約が終了する設備が続々と出て来ます。しかし現状では契約満了後の設備に対する対応策が全く決まっていない現状です。
一方では2020年のZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)の平準化に向けてZEHの推進を約束している施工店の立場から、太陽光発電の期間満了対策と新規ZEHの推進を行わなければならない事が、ジレンマとなっている施工店も少なくないと思われます。
実際に弊社もまた、地球温暖化対策に共鳴しZEHを希望している建て主様に、10年後の対策が決まっていない現状で、今ほんとうにZEHを勧めるべきかどうか途惑う場合もあります。
下表・1は、太陽光発電の買い取り制度が始まった2009年から2019年までの買い取り価格の推移を表しています。住宅用10KW未満の太陽光発電は1992年の「余剰電力買い取り制度」と政府の設置補助金で、我が国の太陽光発電導入量とパネル生産量は2000年初頭まで、世界をリードし、我が国の環境大国の名を高めました。ただ買い取り価格が「家庭の電気料と同じ1kW/時24円)だったため、それ以上の太陽光発電の導入量を伸ばす力はありませんでした。
当時、ヨーロッパの環境破壊は現在の中国の様に深刻で酸性雨が湖沼を汚染し、この環境問題を解消する手段としてドイツでは、FIT(固定価格買い取り制度)を立ち上げ、再生可能エネルギーの買い取り価格を1KW/時80円という破格の値段で買い取り、ドイツは一気に世界一の環境大国になりました。その後、FITはフランス・スペインなど欧州を中心に広がり(再生可能エネルギー)を増やす標準的な政策になりました。
我が国でも2009年から10KWの太陽光発電の家庭用買い取り制度が開始され、2012年からは20KW以上の産業用も開始されて、本格的なFITがスタートしました。

太陽光発電売電価格の推移

太陽光発電に頼りすぎる、我が国のFITの現状。

我が国の本年4月末時点のFITに関連する再生可能エネルギーの導入状況は、住宅用と非住宅用(産業用)を合わせて太陽光発電が3300万kW以上と圧倒的に大きく、その他の風力発電は約300万kW、中小水力は38万kW、地熱は1万kW、バイオマスは166万kWと世界と比較すると太陽光発電だけの偏った拡大が問題になっています。
世界では風力と太陽光の導入量の比率は約2対1ですが、日本の場合は約1対11と、コストが高い太陽光発電が圧倒的に大きくなっています。
下表・2をご覧頂ければ分かるように、FITでは自然エネルギー各種の導入コストの変化を参考に、買い取り価格を決める仕組みになっていますが、我が国では太陽光発電以外は、参考事例となる新規導入があまりに少なく、価格の見直しもできていない現状です。

太陽光発電以外の自然エネルギー買い取り価格例(単位:円/kW時)

太陽光発電設備の継続・再生が可能な買い取りシステムが必要です。

2年後に満了を迎える太陽光発電を搭載した建て主の反応を調べて見ると、多くの建て主が不安感を持っているようです。太陽光発電の契約満期の「2019年問題」は日本の自然エネルギー政策の一つの節目になります。
せっかく増えた太陽光発電を着実に伸ばし、太陽光発電以外の再生可能エネルギーを増やすためにも、買い取り契約終了後も太陽光発電の継続が可能な買い取りが必要です。
現状ではインバーター等の主要な設備の交換が必要となる10年後に、太陽光発電を止める方も出るのではないかと危惧されています。実際に太陽光発電設置費用の残債が200万円以上もあり、買い取りがストップした場合、設備更新を諦めている方も多い様です。前月号の「省エネルギー基準」に対する「既存不適格」のように、国が旗を振ってZEHを勧めていながら、既存の太陽光発電設備が継続できなくて、廃止に追い込まれる方がいるとすれば、なんのための温暖化対策、なんのためのZEH推進なのか分からなくなってしまいます。

再生可能エネルギー推進の流れは止められない。

現在、日本の屋根に広がっている太陽光発電パネルは大きな社会資産です。理想的には、現在の販売価格からは安くなるにしてもこれまで通り、電力会社への売電ができるようにして、混乱なく発電が継続されるのでなければ、今まで取り組まれてきた、再生可能エネルギーによる地球温暖化に対するアプローチは、水泡に帰してしまいます。
既存施設の継続は買い取り価格がカギになりますが、識者の意見では「平均的な発電コストで買い取るのが良い」という意見のようですが、電力の卸し市場の価格をみると、その価格は10円程度です。
この価格で太陽光発電の継続が考えられるのかどうか?何とも言えない数字ですが、発電を継続するという気持ちにさせる価格設定が必要だと思います。
政府は原子力発電の継続推進を考えているようですが、既存設備を耐用年数まで使用する事については容認されるとしても、新規の原子力発電設置は、かなり難しくなっています。原子力発電に掛かる設置・廃棄の莫大な費用を考えたら、太陽光発電の補助金は微々たるものです。
現在は太陽光発電を高値で買い取る費用は、電気料金全体に上乗せされていますが、2030年以降は、全ての新築住宅にZEHが求められます。
FIT(固定価格買い取り制度)による売電制度は無くなるにしても、自分の住宅で自己消費する電力と自動車燃料等の発電で、家庭電力の自立を可能にすべき時代は近い将来に必ず到来します。 これから考えなければならないのは、将来を見越して蓄電池や燃料電池などを併用し、売電に頼らない常識的な太陽光発電の設置が重要になります。 上にわたって強要され、それがこの時期に建てられた住宅の建て替え時期(寿命)を早めたことは確かだろうと思います。地震が起こる度に、心配して過ごすわけですから、家族の心労も並大抵ではなかったと思われます。

ZEHの推進は国是として推進することが重要。

我が国は、ZEHの推進による地球温暖化防止を選択したからには、10年間のFIT満了後も太陽光発電の伸びを止めない施策が最も重要です。工業・産業用電力と家庭用電力を分離して、家庭用電力は太陽光発電等の自然エネルギーを主流に、産業用は既存の原子力や風力を始めとする、その他の自然エネルギーという様に、産業用と家庭用電力を明確に分けて考える必要があります。
近未来の状況変化を考えると、少なくともEV自動車燃料と家庭電力を造り出す、クリーンエネルギーの自然エネルギーと太陽光発電には、継続的な補償対策が必要です。
日本的なガラパゴス政策から新しい、世界的な価値が生まれるかも知れません。