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Vol.36 EB(エナジーベネフィット)からNEB(ノンエナジーベネフィット)へ!

省エネルギー技術だけなら誰でもできる時代になりました。
今、問題になっているのは、命を守ることができる住宅性能への転換です。

2013年11月28日更新

■省エネ性能から健康を守る住宅に、価値観の大転換?

地球温暖化防止のためには、化石燃料の大幅な削減が必要です。また、限りある化石燃料は資源の減少と共に確実に値上がりしていきます。家庭で使用される暖冷房エネルギーの削減は、これからこの地球に生きていくすべての人類にとって、他人事では済まされない重要な問題です。産業革命以来、人類はすさまじい勢いで化石燃料を燃やし地球環境を汚し続けてきました。 ヨーロッパやアメリカ、日本などは、酸性雨に見舞われ森林を枯らし、魚の棲めない湖沼を沢山出現させました。しまいには大気汚染による公害病まで発生させ、ようやく地球環境の大切さや資源の有限性に気付きました。
発展途上国や中進国は、先進国は地球環境を汚して発展してきたのだから、我々にも発展のために地球環境を汚す権利があると主張してきましたが、世界第2位の経済大国となった中国などの例でも分かるとおり、公害をまき散らして経済発展を実現しても、大気汚染や水質汚染など取り返しのつかない環境破壊を起こしては、経済発展になんの価値も尊敬も生まれないことが再確認できました。
1995年から毎年開催されているCOP(気候変動枠組条約締約国会議)に意味があるのは、各国の実情を踏まえながら、協力して方向性を見いだそうという姿勢です。
当初は二酸化炭素排出権というビジネスチャンスにのみ目を奪われていましたが、急速に進む温暖化による異常気象は、環境を投資対象にする愚を認識し、もっとシンプルな人間性の問題、家庭の問題としてとらえ直されようとしています。
このようなエネルギー消費の削減をEB(エナジー・ベネフィット)と言います。日本では、主に省エネルギーという側面から化石燃料の消費を削減することによって経済的な恩恵が大きいと思われ、その手段として取り組まれてきた住宅の高断熱化ですが、EBには素晴らしい副産物が潜んでいることが建築家や住環境学、住宅設備学、そして医学者の間から公表されるようになってきました。それがNEB(ノンエナジー・ベネフィット)という考え方です。

■「認定長期優良住宅」や「認定低炭素住宅」優遇。

欧米では住環境が人体に与える影響についての考察から、冷暖房効果が高く省エネルギー性能に優れている住宅は、人間を自然環境から守り、特に気候が関係する病気や成人病の発症に対する予防効果のあることが明らかになってきました。特に寒冷地に位置している北ヨーロッパでは、住宅の寒さが健康に与える悪影響は常識とされ、研究も進んできました。
WHO(世界保健機関)からも住宅の温熱環境が健康を守るという側面からNEBで温熱環境の快適な室内環境の確保が重要だと報告されています。
住宅の高断熱化が遅れていた日本でも、結露やヒートショックなどによる健康への悪影響が広く知られるようになり、快適な居住環境で健康な暮らしをめざす「健康維持増進住宅」の研究も進んでいます。
国土交通省は、東京大学名誉教授で日本建築学会長や建築研究所理事長を歴任した村上周三建築環境・省エネルギー機構(IBEC)理事長を委員長として「健康維持増進住宅委員会」を開催し、我が国のNEB(ノンエナジー・ベネフィット)住宅と健康の問題を研究・検討しています。

■精神論がもたらす健康被害に要注意!

今まで高断熱住宅を推進する目的は、省エネルギーにどれだけ効果があるかというEB(エナジー・ベネフィット)と言う視点から語られてきましたが、このような議論ではドイツやイギリスなどと比較しても暖房費をそれほど使用してこなかった我が国では説得性が低く、住宅性能を比較してみても欧米では無暖房住宅やゼロ・エネルギー住宅が主流にもかかわらず、我が国では5000万戸の既存住宅の内、次世代省エネルギー基準の性能を満たす住宅ですら、その1割にも満たないことが指摘されています。
これは単に日本の住宅が性能的に劣っていると言うわけではなく、欧米のように高緯度に位置し寒さ対策の暖房が主で、冷房を必要としない地域とは全く異なることも計算に入れておかなければなりません。
兼好法師が徒然草で「家の造り様は夏を旨とする」と言ったのも、底冷えのするような京都の冬でも火を焚いて暖房さえすれば何とかなるが、蒸し暑さだけはどうしようも出来ない、だから夏の対策を第一にして造った方が良いと言うことから出てきた言葉です。
高断熱・高気密住宅の必要性を説くと必ず、子供達が寒さに耐性の無い軟弱な身体に育つのではないかと心配する方がいますが、精神修養で真冬の海に飛び込んだり、滝に打たれるのは医者に言わせれば愚の骨頂「百害あって一利無し」、むしろ危険きわまりないといわれます。
成人の場合も脳卒中や心臓病の発症原因になりますし、身体を冷やすことで様々な疾病の原因を造ってしまいます。たくましく強く育てるためには、寒さという異常な負荷を与えるよりも適切な温度管理の下で、運動が出来る快適な環境を与えた方がよほど元気な子供が育ちます。